善壱、観音菩薩説

善壱、観音菩薩説

煙草を吸わない者ばかりが集まっていたため、一服する間をまったく考慮していなかった。河岸を変えるために歩いていた街角で喫煙所を見つけるや「少しだけ!」と急いて、善壱という男は煙草に火を点けた。と思ったら紫煙を一口だけ吸い込んで (more…)

酒に十の徳有り

酒に十の徳有り

かつて灘で造られた酒を「下り酒」と称したように、上方より入った上質の物は「下り物」、粗悪な品質の江戸の物を「下らない物」。それを語源に「くだらない」が生まれたとも、酒店のコラムにあった (more…)

そこに生きざるを得ぬ定め

そこに生きざるを得ぬ定め

子方がシテを務める狂言「重喜」。公演後に、実は子方が四十度近く発熱していたという舞台裏が主催側からポロリ出て。それでも演じきった役者たちに「よくやった!」の前に、隣りの隣りの席の不機嫌な老人が「けしからん!」と物言いを付けた (more…)

飛散、安宅の関からの

飛散、安宅の関からの

仕事納めのその日まで北陸に滞在、冬の日本海は例年になく穏やかだった。恋の季節を待ちきれず、若者たちが触れ合っていた「安宅の関」で、富樫ばりに詮議してやろうか、それとも弁慶ばりに打ってくれようかと私の胸の裡だけが荒れていたのだが、帰省して年が明けると (more…)

私的寒山拾得その弐

私的寒山拾得その弐

——寒山拾得が二人で描かれていることに、ようやく自分なりの解釈を得るも、私は投函された喪中葉書で旧友の母が亡くなったことを知ってしまった。

寺のかまど番をしていた拾得が寒山にその残飯を (more…)