怱忙のうちにも、魚釣りに行けなかったわけではなかった。しかし、盛夏を目前に焦燥に駆られていたのも事実。物音を立てないようにして納戸から釣具を引っ張り出すも、建て付けの悪い戸がけたたましい音を上げたから母親に見つかった。安普請の廊下すなわち玄関に屹立するや (more…)

怱忙のうちにも、魚釣りに行けなかったわけではなかった。しかし、盛夏を目前に焦燥に駆られていたのも事実。物音を立てないようにして納戸から釣具を引っ張り出すも、建て付けの悪い戸がけたたましい音を上げたから母親に見つかった。安普請の廊下すなわち玄関に屹立するや (more…)
○○ナンバー××−××、白色のSUV車。三日間の行程、下山せず二日経過。携帯電話、不通(圏外と思われる)――轍鮒の急、遭難の緊張が走る。しかし不思議なことに、同時に膨張していたのは渾然一体への憧れだった (more…)
途端に鼻腔を駈け抜けた閃光が、そのまま眉間をズブりと突き刺した。視界から色彩が奪われると、脳天から折り返してきた辛辣に喉を灼かれ声も出せない。ようやく泪の中に戻ってきた光に私は、日没を観たのだ。おお、あれが彼岸の、西方浄土―― (more…)
今や下品な成金が膨大なエネルギーから二酸化炭素を排出して、宇宙へ飛び立つ時代になった。市井の私たちは毎朝、決死の覚悟を持って感染リスクの中をエネルギー消費の少ない鉄道で移動しているというのにだ。露わになった格差に環境まで破壊されるのだから遣る瀬がない―― (more…)
薫風にくんくん鼻を鳴らして直売所。まさに雨後の筍状態で並べられていたから、余計にどれがいい品なのか皆目見当が付かない。開店直後にも拘わらず店内は盛況で、我先にと伸びてくる手にたじろぐばかりだった (more…)