Anti system

Anti system

アンチシステム! 絶叫していたハードコアパンクバンドが、ライブハウスの暗い階段を上がって来るや否や、「もしもしーお疲れさまですー」最新式の携帯電話のアンテナを伸ばして通話し始めた。
唄い継がれてきたのは労作唄を基にした民の謡いだったが、今はもう余興に堕している。ザクザクザクと振られた銭太鼓は意外に危うい音色で、烈しく弾かれた三味が鋭く、天井まで突き抜けるほどの鼓に驚くと、安来節は唸りをあげた。
観光旅館の柱は十字架を浮かび上がらせ、照射されたライトの影で不気味にはためく。すると、どこからともなく、頬っ被りのどぜう掬いが現れたではないか。
これだ! これが、アンチシステムだ!
Fools car

Fools car

若い頃は、車も自分の一つであるかのように思っていたのだが、ということは何か。阿呆だったということか・・・・・・。
Live one day at a time

Live one day at a time

ひんやりさっぱり「美味しいね」と見合わせていた顔に、先を急ぐハイカーのつぶやきが問われた。
「詰め替えてきたの?」
応えに窮していると「コンビニのでしょ?」
いいえ。そんなに雑に、生きていません。
Jesus he knows it

Jesus he knows it

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好きが高じて、自宅の納戸で小さな樽に酒を仕込んだ。二冊の指南書と数キロの米と米麹。酵母は酒粕から培養し、水は山から清水を汲んできた。
麹の酵素が米のでんぷんを糖化し、その糖分を酵母がアルコールと炭酸ガスに分解して酒は造り出される。発酵強く、そして長ければ、酒はキレの良い辛口になるという。袋吊りにされた醪から滴る一滴は、清酒というその名を覆すほどに淡い山吹色を纏っていた。
飲みやすい酒は数在れど、骨身に染みるような酒はあまりない。趣向を凝らしたのはどれも外見ばかりで、嫌に香っては無色に甘い。キレの悪い後味に、箸も重たく揃って動こうとしない。
一升瓶の首掛けに「燗が冴える純米酒」と掛けられていた酒があった。
湯煎でじっくり燗を点けてみると、その酒は舌の上いっぱいに味を開いた。純米酒の力強いコクは驚くほどまろやかになり、豊かな風味が爽やかに鼻腔を抜けていく。思わず衝いて出た旨い! の言葉の後には何も残さず、すっかり消えていた。
発酵強く、そして長ければ、酒はキレの良い辛口になる。
首掛けをもう一度よく見てみると、今度は造り手の想いに杯を傾けさせられた。
「このお酒は三十五歳以上の人生の機微が分かる方に」
一日の最後に酒がある齢になると知ることがあった。やっぱりそんなに甘くない。