それぞれのチョロQ

休暇中に母を連れて盛岡へ行ったのだが、列車が到着するやピューっとホームを駆け出して行った。東北新幹線から切り離されていた秋田新幹線の車掌に母が話しかけているのが見えた。見えたと思った途端、またピューっと戻ってきた。「かっこいいねー、言うてやんだ」

そんな母を旧友が回顧してくれたことがあった。「チョロQみたい」だったと。まさに言い得て妙、どこからともなくピューっと現れては、いつもその満面の笑みに余計な話を含ませて、やめてくれあっちへいってくれと追い払われる前にどこかへ消えている。消えたとは大仰で実際は小っこいだけなのだが、ハッ――。消えた、対談していたはずの師の姿が舞台上から忽然と消えていた。

客席から寄せられた質問に向かってピューっと駆け出して行ったその様は、どこかで見たぞ。おお! チョロQ! 狂言方の山本東次郎師は、そのお人柄もさることながら御年八十歳を優に超えて尚、俊敏。というか人間国宝が駆けてきて、正座して、まるで膝を突き合わせるようにして聞いてくれるのだから、質問した方はさぞかし緊張しただろう。

 

立合いで一度当たってから後退し、助走をつけて当たり直したという、まさにチョロQ的な相撲で沸かせてくれるのはこの力士以外にいない。新三役昇進の今場所、対琴ノ若戦では低い体勢からの右おっつけがいい位置で決まり、琴ノ若の体を泳がせた。が、ご存じの通り場所後に大関昇進を果たした琴ノ若は絶好調で、慌てずに向き直った。左上手からの出し投げで崩して、送り出し。

負け越しても千秋楽、宇良が決めた大技「伝え反り」は業師の矜持、というよりも、なんとしても俵の内に残ろうとするその心意気だから大歓声に包まれる。私も言うてやんだ、かっこいいねーって。

心技体の揃った、第七十三代横綱照ノ富士。綱取りの大関霧島を一蹴どころか速攻相撲で土俵下まで吹っ飛ばした取組もまた、最強チョロQでした。