師走に入って、玉川奈々福さんの日に木馬亭へ。決して、曲師の広沢美舟さん目当てではなく、軽やかな三味の調子に乗せてうなる、その名調子を「たっぷり」聞きに来ただけである。であるのだが、衝立障子に隠されたまま聞こえてくる曲師の三筋、そして絶妙な合いの手が、なんだか蠱惑な眼差しで入れられているように透かされてきて、ぞくぞくってするのは師走だから、という訳ではない。これが浪花節だよ、おっ母さん・・・・・・。
先日の坂口安吾生誕祭は出弾きでお見かけしたが、やはり曲師の、あのなんとも野性的なショートカットに、戦慄を走らせるのは私だけではないだろう。是非ともALLJAPAN・SCFC(全日本ショートカットファンクラブ)で詮議したいそんなことよりも、そんなことよりもだ。お陰で肝心の新作浪曲「桜の森の満開の下」が頭に入ってこなかったではないか。浪曲は声だ、節回しだ。啖呵だよ、おっ母さん。衝立持て来い、集中させろいってんだ。
べべん。あ、おう、いやー、べべん。
・・・・・・やっぱり、見たい。一目だけでも、逢いたいよ。頼むからその衝立を、打っ遣ってくれ――
いよいよ最後の幕が上がった。テーブル掛けに玉川奈々福、そして曲師の衝立も外されている。よっ待ってました! 出るか、出るか!
沢村豊子師匠、出たー
(現役とは本当に素晴らしい。何より、日本の婆やほど愛おしい存在を私は他に知らない。ショートカットだしな、豊子師匠も)