矜持が一大事

始発の新幹線で指定席に着こうとするも、隣席の乗客が異常な数の土産物をせっせと棚に上げていた。全身黄色尽くめの中年男性で、私は迷惑というよりも「変」という偏見で見てしまったのだが、よくよく注視すると、なんだかベテラン・メカニックのようであり、地球を守るセンター職員のようでもあった。

乗り換えの駅で立ち上がり、また恐ろしいほどの土産物を棚から下げ、降車の準備が整ったところで、黄色い乗客は深い一礼を私に向けた。「ご迷惑お掛け申し御座候ふ」踵を返したその背中には、えむ・しー・ぜっと――? おお! これが、アイドルの士! もののふと呼ばれる、崇高なるアイドルファンだったか。

自治体を巻き込んだアイドルのイベントは、その経済効果が大きく取り上げられるが、注目しなければならないのは士たちの「矜持」なのかもしれない。前泊し後泊もして、始発の新幹線で帰省して、そのままセンターへ出勤するのだろう。そして土産物を配り、楽しい旅の話で盛り上げては「私も今度行ってみようかしらん」と、聴衆を感化するまでが仕事なのだという、自負まで見えてきたではないか。

「いやはや、路が混んでまして」朝一に移動してきたことを噯にも出さず、私は平然と約束の時間に遅れたことを誤魔化した。が、「え、呑んできたんですか?」「へ?」「顔、真っ赤ですよ」

もはや花のお江戸に春はなく、夏の日差しに焼かれた靖国神社の屋外相撲場・・・・・・。

「あ! 週末に地方でやってましたもんね、アイドルイベント!」

力の士のファンの矜持ってなんだろう。とにかく一大事。すみません、奉納相撲を朝稽古からずっと観てましたと弁明すべきか、それとも・・・・・・。