それぞれの優先度

イーハトーブでの仕事のときは、北にも南にも動きやすい台温泉に逗留しているのだが、この歴史ある温泉は、実は新源泉の方がよく効く。効くのだが、毎食山盛りの飯が配膳されるので烈しく肥る。でも食べないと烈しく怒られる。なぜならここは、湯治場だから。健康第一。

畏友との縦走登山、だから一升瓶をザックに忍ばせている。バカみたいに重たいのは当然だが、大横綱の大鵬は「心の上に刃を乗せて」と、『忍』という字を好んで揮毫したという。私の上に刃の如く乗っかる日本酒も「よくキレるよー」夏でもアルプスでも男は黙って熱燗を嗜むものだ。

夕立に遭わないよう、昼過ぎには山小屋に到着していた。持て余すほどの時間もなんのその。自炊室で野菜の皮を剥き、仕込みを楽しんでいる畏友を見た他の登山者から「玄人の方ですか?」小屋番も太鼓判。君たちいいよ、君たちはいい。

単独行の登山者が続々と到着したのは、既に夕方だった。走ってきたという女性に、二日かけて登ってきた縦走路を半日で駈け抜けたと吐き捨てられ、ジャンダルムにも登攀したという過激な女性には、危険な岩稜を回避してきたことを鼻で笑われた。

芋焼酎を生でやり、ウヰスキーをニートで煽る女性たちから隠れるようにして、男はチロリで酒を温め、閑かに包丁を揮っていた。安全第一。

過激化するのはオリムピックも同じようで、くるくる回るアーバンスポーツと称されたそれが日の目を見るとあっては、不良少年たちの居場所はどこにある? 不良とは素行不良と異なり、何かが違うと気づき、大人たちが言う嘘を見極めて反抗すること。誰かによって決められた優良と相反した不良のこと。

そうなると今度は、なるほど。不良が「勉強」する時代に入ったのかもしれない。遅れてなるものかと、夏休みの小学生たちに紛れて、博物館を巡る日々が続いている。勉強第一。