河成段丘を一望する人気のキャンプ場も、平日は閑かなもので、独りを満喫するキャンパーたちの白煙が薄く棚引く程度。へ? 独りを満喫したいのならば、樹海へ向かえばよいではないか?
若い頃は山中問答が愉しく、酔いに任せて阿波踊り(しかも女踊り)で、夜半中テントの周りを踊り狂った私も、かくいう私となりて今。美事な段丘を望み、いかにして人間の路が拓かれてきたのかを、改めたいのだと熱弁を振るっても、そんなのは嘘だと。いや、マジでこのキャンプ場からだと、春に登った霊峰を望むことができる云々も、言い訳でしょうと。
キャンプがしたいのに寂しいとは、如何なものか。訝られる前に、私は釈明しなければならない。キャンプがしたくてキャンプ場を訪うたのではなく、ランタンのポーチを購入したがために、こうして悠久の営みを眼前に置いて、流し下されていく刻を無常だとも嘆いているのだ。
最近判明したことだったが、オイルランタンの火屋を割ってしまうと、再購入が出来ないらしい。ならばもう少し丁寧に扱おうかと、収納ポーチを通販で購入したが、そこで陥穽にはまる。あと少しで送料が無料に、あと数点購入すると更に割引だと促されて、スタンドと小さな鉄板を追加。そんなの、要らないのに。
まあ、全体的にはお得になったのだろうという安直が前兆で、なんとスタンドには風防が装着出来るらしい。風防も購入し鉄板を乗せると、スタンドは立派な五徳になったが、分離型のストーブでしか使えないではないか。
泥沼に片脚の状態で店舗に踏み入れたものだから、今度は分離型ストーブの、巨大な飯盒とカップが付いてくる「今だけセット」に引きずり込まれた。僅かな期間で急増した道具に急き立てられて、どうしよう、もはやキャンプに行くしかないと・・・・・・。

性懲りもなく。たまたま覗いた店のワゴンの中で、ロッジ社の10インチのダッチオーブンが投げ売られていた。割れも欠けもなく、売れ残りと思しき新品が三千円。・・・・・・嘘だろ、箱だけでもカッコイイのに。震撼している私を横目に、母子のキャンパーがワゴンの中を漁り始めた。
どうぞ、持っていってくれ。私には不要の、ファミリーに丁度いいサイズの、キャンプオーブンだ。週末のキャンプを最高の思い出にしてくれと、私は眼を瞑ったが母子は・・・・・・嘘だろ、メイド・イン・テネシーの前をスルーしていくではないか。
持ち帰った後しばらく飾って愛でていたが、どこまでも本末は転がり倒れていく。ならば、このダッチオーブンでキャンプ料理を愉しむためにと、私は頭のてっぺんから虚しい白煙を昇らせていた。
