復帰の第一声で何を言うかと思ったら、伊藤 耕。「政府は嘘つきです!」
在りし日の素晴らしい演奏会の記憶は今も鮮明に蘇るも、十年経ってまたこれだ。「可能な限り依存度を低減する」からの急展開は、国際情勢に完全便乗した原発再稼働へ。この政治家等は嘘つきというより莫迦なのだろう。慨嘆に堪えないので、物忌を一旦止めにして温泉郷へ逃避。
何よりの賦活剤、ああ温泉はやはり温い。髄まで滲みるぜ。
久しぶりの奥飛騨温泉郷は平湯温泉に投宿。歴史ある湯量豊富の名湯だが、さすがの一大観光地で少々難もあり。やたらと肉を喰わせるのだ。観光客なんぞには肉だけ食わしておけばいいんだよ、とでも言いたげに運ばれてくる飛騨牛です、やれナントカ豚です、アタシは鶏ちゃんですと、大回転しながらの肉祭りにはホトホト参りました。
その点、飛騨小坂温泉郷の湯屋・下島温泉は自慢の炭酸泉を鉱泉料理として積極的に食べさせてくれるのだから、これは嬉しい。更に山へと分け入って濁河温泉まで登ってくれば、野生のヤマトイワナが渓を躍る。どうして釣り竿を忘れたことに気付いても遅かった。
山が深すぎたからだろう。温泉地としての開発が新しい濁河温泉はきっとそれ故に、例えば石川理夫の『本物の名湯ベスト100』にも、松田忠徳の『新日本百名湯』にもその名を記されていないが、湯口に付着した析出物の造形は遜色なく美しい。何気に万座温泉と同じ標高千八百米の高所温泉地であることを知り、そうか秘湯の部類だったかと野口悦男『野湯&秘湯100選』を捲るも、まだ濁河温泉は出てこないのだから不思議でならない。
それにしても走っている人たちがやたらと多いのは、なるほど高地トレーニング。都会ではお掃除ロボットに任せて肥満になった人が、冷房のガンガン利いた部屋の中、電気で動く道の上に濁った汗を落としているが、気温も低く緑の中は爽快で、何よりバッキバキの温泉だから運動後にもよく効くだろう。
霊峰は静かに霧の中に。深田久弥の『日本百名山』には御嶽山は別格、「北だの中央だの南だのとアルプスは混みあっているね、そんな仲間入りは御免だよといいたげに悠然と孤立している」とあった。悠然と孤立、かっこいいね。
何にも属さない、その巨大山塊の懐で温められた温泉に浸かれば、狭量な考えなど一気に吹き飛ばされる。経済優先では豊かになれない。何でも電動自動化では失う力の方が多くなる。部屋の掃除をした後、何よりキレイになったのは自分自身であると私はいつも気付かされるのですが、間違っていますかね?