メーカー百周年の新刊に刺激を受けて分解しだしたのは、24金をボディにあしらった「リールのロールスロイス」こと、アンバサダー・デ・ラックス。近年、6000番台の別注品が集中して発売されたが、釣具というよりは貴金属、もはや財産であるそれを往事のフィールドで見かけることは皆無に近かった。いや一度も見かけたことはなかった。
どうしてそんな高価な代物を、私は見事に使い倒すことができたのか。実はそれを贈与されたと告白するのだから、まったく人徳であるとしか言い様がないだろう。「おほほほほ」
メンテナンスをプロショップに出したときは「こいつ本気で使っとるで」とおののかれ、まるで後光が差すような輝きは下々の羨望を一点に集め、(事情を知らない)先達は使い倒す侠気を賞賛したが、取材同行していたカメラマン(後に新刊のプランナーになる)だけは、
「そんなん売り払ってさぁ――」と言ったとか言わなかったとか。
ドライブシャフトを取り出すと、あろうことか軸は台座にめり込み、歯の山が四つ五つほどきれいにとばされていた。アンチリバースという逆回転を防止する機構は魚の抵抗も受け止めるため、改めて高い負荷がかかっていることがよく分かる。数多の大物を相手にしてきたことがよく分かる。「おほほほほ」
時代を経ていつしか堅牢は省みられなくなった。特別なモデルといえど、中身はコスト削減に躍起になった時代の量産部品か。軽量化とは言い訳の一つに過ぎず、機能として備わなければならない強さを欠いては、ただの装飾品に堕ちてしまう。
古き良き――、それはノスタルジーでもなんでもなく、古典が伝える普遍的な真理と同じである。頑丈な造りと確かな手仕事を取り戻したい。