徒然なるままを言い訳に

さぁ、テンカラ釣りで「本流に潜む大物を釣る」を今季のテーマとして河に立ち込むも、あまりに強くて太い流れに体はもとより、当初のやる気さえ押し流されている——。まさに困難と呼ぶに相応しい奔流のどこに魚は潜み、どう誘い出せばいいのだろうか

多くの大物が潜むのは人生のと同じく、きまって深い淵。テンカラの毛鉤は浮かず沈まず、そして漂わずに流れるも、その残像を残すだけで鮮明には見せない。だから深淵にはまるで届かぬが、その諦観こそが無為心を操り、流れの中で魚を誘い出す。鋭く追求するが固執しないという諦めの境地で見出せば、この河の流れに適った方法であることを気づかせた。

急流がまとまり勢いを増した水は、そのまま川幅を絞り上げようと試みたが、河は軽やかに川筋をずらしただけでいなし下していた。わずかな河の曲線に生じた緩流の綻びに、流れの影裏が見えた。竿を跳ね上げて釣り糸を宙に舞い上げた。その反動で前へと弾き出された毛鉤は風を切って空を貫き、命を帯びて躍動したが、そこだけ薄墨を滲ませたような浅い深みには届かなかった。急流に耐える方の足を踏ん張り、もう半歩いや一歩先の、今度こそはと竿を跳ね上げた刹那、——どうしてそこに居るの!

粉砕した石敷の川底まで光りを通わせていた飴色の水が突如として割られ、巻き起こされた対流の渦に毛鉤だけでなく、時間から記憶までの一切を飲み込まれた。天地を分けて隔たる者を結ぶ蜘蛛の糸に、直線上の強い緊張が走る。走る——!緑に橙に翻っては金にと銀鱗を反らせた、野太い岩魚と釣り人がそれぞれの運命に抗った。

昨季はブラウントラウトに、下流に向かって一気に走られて教訓を得た。だからそうはいかぬと、下流に向かってどこまでも河の中を追従する。今季の釣り人はただ歯を食いしばり、耐え忍ぶ運命に終わらなかった。一本の竿と、それに結ばれた釣り糸だけで対峙しなければならないという最大の弱点が、スリリングで比類なき興奮に変わる。

それでも、釣り糸を思い切った号数にまで上げていたから、余裕を持って対応できていた。竿さえ折られなければ、もとい、折られたとしても絶対にラインブレイクだけはさせないという気概を持ってして、はじめて成立する関係がある。散歩のついでに富士の峰を登った人がいないように、大物は大物を狙う釣り人しか出会えない。——だが実は、先にスレ掛かりした山女魚を寄せたときに、弱い自分が露呈した。想像するに、その太すぎる釣り糸は易々と見切られ、魚が翻ったところを引っ掛けてしまったのではないか——。

釣り糸を細くすれば——、本流の山女魚はやはり悪くないサイズで、元来欲深い釣り人を揺さぶった。むろん、一匹の尊さは魚の大きさにあらずだが、弱い自分はいつもとなんら変わらない満足を求め、なんら変わることのない自分を慰めようとする。徒然なるままを言い訳に、おまえは抗おうともしないのか。

ほんとうに釣りたい魚を釣るための決心は、ゼロか百かのいずれかだ。そうでなくては魚を、この河を山を宙を、尊ぶことなどできないと、自問の中で振り切った。真骨頂はそう、流れの中で魚を誘い出す。強くて太いその困難な奔流こそ、深淵での諦観に見せられた気づきだった。