世田谷経由、奔流行き

いろは坂の大渋滞を避けるために連休を少しずらしていたのだが、大きな被害だけでなく残雨まで置き去りにされたことで、また遠ざかる日光湯元の湯の香り。嗚呼、日光連山——。いじいじとしながら、今季の魚釣りを振り返る。

少年期からのライフワークである、あの魚釣り。魚釣りには毎年必ず「課題」を持つことにしており、課題を持つことで目標が見えてくると、釣行回数を減らしても充実感は増える。「見ない」すなわち、脱サイトフィッシングは近年課題に挙げていることの一つだったが、何やら怪しくうごめく水面が気になり思わず覗いてみると、ウシガエル(それもまた巨大なウシガエル!)をくわえた魚の姿が——!

そのカエルがあまりに大きいためか、魚は飲み込むことができず、水の中に潜ることも回転することもできないようで、カエルの抵抗に追従していくのが精一杯。慌ててカメラを取り出すも間に合わず、ついに吐き出されたカエルは九死に一生を得て、私はやる気満々の素晴らしい魚を釣り上げることができたのだが(見ちゃったけれども)、やはり写真に収めたかった・・・・・・。まだ若い魚に見えたが、この魚はすぐに大きくなるだろうな。

久しぶりに読んだ「マクリーンの川」に出てきたエルクホーン川とそこに棲む背中の黒いトラウトは、一部が醜いことによって、かえって美しく見えるという。どういうことか知りたくなり、ブラウントラウトを求めて遠征した。森の中を静かに流れた川の浅場で水から上げてみると、魚は驚くほど鮮やかな配色の鱗に朱色のスポットをいびつに散りばめて、その体を飾っていた。

この美しい魚はニジマス同様に移植の歴史こそ古いのだが、今や第二のブラックバスともされ、近年多くの河川に分布を広げている。ニジマスは天然水域での繁殖が難しいこともあり、本州では影響が少なく「帰化した魚」とされているが、ブラウントラウトは魚食性であること、そして攻撃性が強いことで対策を急がれている。食用や掛け合わせのために持ち込まれた個体の逸出や管理釣り場からの逸出が分布の発端だと思われるが、それゆえに産業管理外来種にとどまっている。

まさしく釣りの好敵手と呼べる魚なのだが、難しい感情を寄せなければならない魚でもある。しかし、そんな醜い現実の中でも魚は、やはりその美しさをもって感動を与えるのだからやり切れない。

落ち込みで粘る餌釣りを追い抜いて、本流を釣り下ってきたフライフィッシャーと入れ替わった。早瀬の脇で立木の間に流れ出て行く分水の勢いに気付かなかったのか、それとも木々が立ち並んでいるから避けたのか、フライを流すことなく下りてきた。木の根がむき出しになっていたことで砂礫の沈殿した浅場に見えたが、中心に集められた水がそのまま勢いよく流れ込んでおり、その根の下はごっそりとえぐり取られていた。

真っ黒い背中を震わせて抗ったのは、ブラウンだ!テンカラロッドを極端に絞り、ラインを引きずりギュンギュンと鳴かせた力の強さ、その苦さに、思わず閉口するどころかたまらず声を上げた。頭を沈めて深みの中へ戻ろうとするや、今度は流れの芯の先まで泳ぎ切ってやろうとするその意志と体力は、無尽蔵だとでも言うのか。なんたるパワーだと、大粒の涙を溜めていたロッドもついには枯れ果て、懺悔を繰り返した。

両手に残る感覚と震えが治まらないまま、メインラインとの連結部にはダブルラインを作った。毛鉤を巻き込んでしまうため不向きだが、即座に結べる強いノットはパロマーノットか。

もう一度、ぎらりと光る魚体が反転し、瞬時に呼応したロッドが立木の間で天変地異を引き起こした!川の流れを逆流させて、七色に輝くその魚体が飛び跳ねる!レインボー、君か——っ(それはそれで大変嬉しいけれど)

本流に潜む強烈な魚に、遠い記憶の底にあったような思いを呼び覚まされた。強い流れの芯からでも魚を引きずり出せる、長くて強いテンカラロッド——そんなのあるのか——?

テンカラ・バム。(New Yorkではないほうのバム)

「テンカラでモンスターを獲る」答えのない未知の領域を開拓する求道者——そうだ、世田谷にあったではないか。来季の課題を「奔流」に設定し、日光はもうすっかり諦めて、世田谷へと急ぐ。

(ついさっきまで、うじうじとしていたのに)早くも面白くなってきたぜ。