沼への橋がかり

半分(いや、ほとんど)朽ち落ちたような外観の中華料理店で、ラーメンの美味さ、その純朴さに感動を覚えたところで、すぐ隣りにあった本棚を何気なく覗くと、まさかの鈴木大拙——。歎異抄があり、西田幾多郎までを本棚に取り揃えた町の中華料理店(ほとんど朽ちている)。震える手でその鈴木大拙の本を取り、ラーメンを啜りながら項を捲る——あってはならないことだ。

スマホで録りためていたラジオ番組は、NHK「民謡をたずねて」。移動中にまとめて聴こうとイヤホンを挿すも、流れてきたのは「DJ俚謡山脈の民謡沼めぐり」。クラブDJが民謡の沼をめぐるという謎の特別番組が、しかも二週に渡って放送されるという。なんだ?まさか流行っているのか、日本民謡——あってはならないことだ。

一応、民謡クルセイダーズの音源は持っているし、俚謡山脈の存在も知ってはいたが(核心をついた酒蔵が集う日本酒のイベントなどにDJとして参加している)、リミックスされた民謡などであれば聴くにたえず、あくまでオリジナルの音源で日本民謡を楽しみたい。そもそも、人のふんどしで相撲を取るような「DJ」というのが大嫌い——

日本民謡集は第32刷、初代鈴木正夫のLPは町田嘉章監修の2枚組だが、R.F.DはSELFISH盤

街のゴロツキとパンクスがまったく違って見えたのは、下手だろうがなんだろうが楽器を弾くことができたからだった。奏でた轟音に乗せて思いを訴える、それはゴロツキやラッパーには到底できないこと。なのに、他人の音源を用いて酔っ払いを踊らせる、そんなことを生業とするDJとは一体なんだ。最も実のない仕事であると今の今まで思ってきたのだが、民謡沼めぐり、おもしれぇじゃねぇか・・・・・・。

番組で流れた民謡はリミックスされているどころか、民謡研究の権威、町田嘉章が集めた日本民謡大観という、民謡の一大アーカイブの音源(民謡歌手による録音盤ではなく、資料として録音された在郷唄)をラジオに乗せた。

二人組のDJは合わせて一万枚の民謡レコードを持つという壊れっぷり(民謡のレコードって一万枚もリリースされているのか?!)。特に面白かったのは二週目の放送で、津軽民謡「ホーハイ節」から始まったが、唄ではなく掛け声の方を聴けという。天変地異の前兆のようなその「ホゥーハイっ!」の狂った掛け声は、かつてMCRカンパニーからリリースされたシティハードコアシリーズのオムニバス盤で聴かれる、OPさんのあの絶叫を彷彿させた。プロレス大会の大きな会場の最後部からでも、物の見事にリングの中央へと届くヤジ、いや、その声援に「やべぇ、OPさんがいる!」自分の席で小さくなっていた青春時代を思い出す。

八丈島の民謡「八丈太鼓ばやし」。稲田カエ、奥村ハツ(たぶん地域の名手)が唄うこのテイクは、超RAW。まるで、Five Knuckle Shuffleの頃のASSFORTではないか。ラストに流れた島根の代表的民謡は、町田嘉章の後継者である民謡研究家、竹内努のヘビープレイとされた、足本秀春の「安来節」。これが恐ろしくキレている!震えるほどカッコイイ!このキマりっぷりは、RISE FROM THE DEADの♪健忘症——か。シティハードコアの面々の中でも、いつも相当キマっていたKさん(それゆえに超がつくほど怖かった・・・・・・)が、やっぱり一番キマっているバンドは同バンドだといつも言っていた。

総じて、非常に面白い番組だった。DJに対する偏見を払拭するとともに、橋渡しも彼らの生業であったかと反省。通常通りに戻った「民謡をたずねて」は今週から行田市での収録だが、どうして少し憂鬱に。

そして番組放送後、ネットオークションで町田嘉章監修のLPレコードを競り負けた——あってはならないことだ。