WIND OF 絵心

力士たちの名古屋入り直後の早朝に千賀ノ浦部屋の宿舎を訪ねたのだが、稽古は明日からだということで、静まりかえる土俵。まったく、稽古が足りないよ!と蓋を開けてみれば、大関陣全滅という前代未聞の異例の場所に。もはや大概のことでは驚かないはずの今場所の大相撲中継で、砂かぶり席から取組を見つめる淑女の黒いTシャツに、SOCIETIC DEATH SLAUGHTER——?

「S.D.S やんけ!」ぶっ飛んだ。

レコードを売却するのは、なんだか魂を売ってしまうようで躊躇うが、いつの間にかホコリに占拠されたレコード棚で、カビの繁殖に怯えるレコード盤を不憫にも。イタリアくらいのハードコアパンクバンドの音源ならまだしも、ブラジルだの南米だのの貴重な音源が出てくると、今の私(主に民謡を聴く)が持っているのはどうにも勿体なく思い、少し整理することにした。

整理中に出てきたBASTARDの12インチEP盤は、日本バンド屈指の名盤である♪WIND OF PAIN。懐かしさのあまり針を落とすと、多感だった中学生の頃に瞬時に逆戻りして、もう、胸が爆発しそうになった。思わず熱くなりすぎてしまい、探せば出てくるBASTARDのTシャツを着て国技館に行こうと、画策してしまうほどだった。

歳を取ると趣向は変わるもので、書とか絵が欲しくなるから不思議だ。諏訪の原田泰治美術館を訪れた。

郷愁を呼び起こす、原田泰治の絵画。新聞連載時に添えられた文章も本人によるもので、これがまた秀逸。山川草木だけでなく、土地に住まう人間の匂いまでを郷愁の中に薫らせた、その一端を担っているように文章は語る。連載当初は観光パンフレットなどを参考に書いていたというが、どうにもこれが当たり障りのない文章に。読者から届けられたファンレターを契機に、見てきたことをそのまま読者に伝えるように書いてみたら、俄然良くなったという。

子供の頃、自分でも驚くほどに、絵筆を取れば県展という美術展で毎度のように入選し、毛筆を握れば海外の書道コンクールにも出展されたことがあった。しかし、我が出てくる頃になるとすっかり才能は萎み、見る影もなくなった。誰かの真似や飾り立てるようなやり方を知ると、きっと無意識ではなくなり、それらしくまとめては形の良い無個性に納まった。物言わなくとも語りかけてくる絵画にあったのは、先の見てきたことをそのまま伝える文章の通りで、誰かの真似をすることでも、飾り立てることでもなかったのだ。

レコードを売却したお金で一枚購入して、部屋の壁に飾った。小さな絵だが、これがとてもいい。