赤毛のアンとパンクロック

名著を読み解く人気番組に「赤毛のアン」ついにきたー!さっそく近所の書店で番組のテキストを探すも既に売り切れ。もしやと文庫本の書棚を探すも、やはりオリジナルである村岡花子訳は売り切れ。思うことはみな同じようで、だよね、やっぱりアンが好き!プリンスエドワード島の風光明媚な自然の中で、アンとアヴォンリーの人々とが引き起こす愉快な騒動。丘を越えると愛と想像の余地に満ちた緑の切妻屋根、あぁ、グリンゲイブルスが見えてきた。DOOMの♪POLICE BASTRADに乗せて——

屋上で一服したあとの昼休みは、図書館で赤毛のアン・シリーズを読んでいた。いつだったか、熱中する私の隣りに教員が座り、肩を抱かれたことがあった。「本を読む奴は信用できる!」突然にして全幅の信頼を得られた私だったが、おいおい、パンクは信用ならねぇってのか!剃り落とされた頭で凄んだ私の青春は、パンクロックと赤毛のアンとともにあった。

休日になるとヤンキーがチェッカーズのような出で立ちでうろついていた田舎育ちが故に、ナウでヤングな街のごろつきに憧れて夜の街をさまよった。しかし、流行は所詮流されるだけであると知った頃に未体験の世界観と出会った。クラブではLAハードコアとかなんとかを回すDJがいたが、そんなものとはまるでわけが違う。とにかく街の中で「最も恐ろしい場所」とされていたライブハウスへ繋がる階段は、とてつもなく暗くて長かったのだが、好奇心の方が勝っていたのだろう。

階段にたむろしていたのは無数の鋲が刺さった革ジャンにトゲトゲの頭、腕や胸に施されていた落書きのようなタトゥー。いやに強烈で鋭い視線の中をさらに小さくなってかいくぐると、「まだダメよ」もぎりのお姉さんにタバコの煙を吹きかけられた。年齢のことをからかわれたのかと勘違いして、思い切って扉を開けた。

 

Woooooow!!!

リハーサル中のバンドのボーカルがフロアに降りてステージに向かい、どの楽器にも負けない怒号を上げていた。鼓膜が破れるほどの爆音よりも目の前にあったボーカルの後ろ姿、長いモヒカンヘアーが真っ逆さまに立ち、天井にも届きそうなほどだった——現実の世界とは思えないその姿に息が止まった。(BLOODY SUMMER TOURが終わり、BURNING SPIRITS TOURが最盛期を迎える頃だった)

静かに扉を閉めて、あっけにとられていると「だからまだダメよ」もう一度、煙を吹きかけられて「・・・ハイ」涙目で開演を待った。

信じられない世界が扉の先に広がっていた!当然、中学生には刺激強すぎ。だからもう一発で魅了された。すごい!パンクはただのごろつきじゃない、楽器を奏でることができる。爆発寸前の自己主張を轟音に乗せて、音楽で伝えられる!

興奮を温かいまま持ち帰ると、M橋君は盗んだ自転車でUKエジソンに行き、EXTREME NOISE TERRORという英国のバンドの音源を買ってきた。Kトシ君もやっぱり盗んだ自転車でレスポールのギターを背負ってきたが、歩いてきたAナベが持ってきたのはアイアンメイデンだった。ともあれバンドを結成。頭の毛を躊躇なく剃り落とした。

——

世界的な活動をしていたバンドのメンバーが近所に住んでいることを突き止めると、生のカセットテープを大量に携えて一人、夜な夜な押しかけた。そして薫陶を受けることができたのは幸運だった(のか?!)。時代は進み、今は通信販売に現金書留や郵便為替も要らず、海外でレコードを購入するのもクリック一つ。カビ臭いほこりまみれのレコード棚を探すよりもYouTubeで一発検索、何の緊張を要さないでアンダーグラウンドな世界観に触れることができるのだから、つくづくすごい世の中になったものだ。

かく言う私もレコード棚を探すのが面倒で(とくにEP盤)検索して追憶する。ANTI SECTの♪OUT FROM THE VOID。アンの赤毛をからかったギルバートに生じた長い後悔のように、師匠のバンドをはじめ、多くのクラストコアバンドは長い間この一枚の呪縛から逃れることができなかった。癖になるメタリックなリフがミドルテンポのままで限りなくダークにそしてヘビーに展開、ドラスティックなハードコアナンバーへと繋げていく構成は本当に秀逸。

誤って葡萄酒を飲ませ、ダイアナを酩酊させてしまったアンの悲劇のごとく、怒濤のサウンドはスカンディナヴィア・ハードコアが黎明期から持つ特色の一つ。ANTI CIMEX ♪RAPED ASSで聴かせる「つんのめり」はもはや暴力的であり、これこそパンクが持つあふれんばかりのパワー。今にしても思わず熱くなる。

つんのめりと言えばENT。M橋君が買ってきたのは♪A HOLOCAUST IN YOUR HEADだったが、珠玉のそれはCHAOS UKとのスプリット盤だろう。緊張感を保持したままギリギリのスピードでせめぎ合うツインボーカルは不格好にして完璧。マシュウがアンのためにパフスリーブのドレスを仕立てようと不器用に奮闘する姿と重なり、深い感動を連れてくる。

 

「アンの青春」とアメリカンハードコア編へと続く。