弘前にて

角界一の巨漢力士、大露羅が今場所で引退——。故北の湖理事長の付け人にして忘れ形見である力士だから、理事長との逸話が多く、厳しい男社会の中で一際ハートフルな話は琴線に触れるものがあった。相撲界における師匠と弟子は親と子であり、育まれた絆はときに国籍はおろか血縁をもしのぐことがあるのかもしれない。引き寄せられたような出会いとは、やはり運命と形容しなければ飲み込むことができないように——。それにしても、もう国技館であの巨体を見られないと思うと寂しい限りだ。

八月の弘前は朝から爽やかに晴れ渡り、浴びるほど呑んだが二日酔いは皆無だった。岩木正宗、いい酒じゃないかと呟きながら、爽やかな朝に誘われるまま弘前城まで歩いてきた。観桜の名所は岩木山の全景を見渡せるスポットでもあり、夏山の緑の風景も心を満たしたが、それでも残った思いは麓にある嶽温泉のこと。そして、反対を向けば黒石の温泉郷がという状況の下で、あぁ、どうして私は朝からここにいる、何をしにきたのかと早朝から目的(予定ともいう)を見失いかけていると声をかけられた。

「よかったら案内しましょうか」

振り向けば美人がにこりと微笑んでいた。美人にはついて行くという、どうして中々いい性格ゆえに、差し出された案内図を微笑み返して受け取っていた。

石垣の補修工事のために本丸を人力で引っ張って移動させた話や、津軽を治めた藩主の話、一見にして貧素な造りの本丸の真相。入口に設えられた松と石の鶴亀、そして他言は無用だと契りを結んで教えられた秘密は、逢い引きを繰り返して禁断の恋へとつながっていく。楽しいおしゃべりを交えての案内はとても分かりやすく、ボランティアガイドの域を超えていると思わせたが、特別そういうのではないというから驚いた。

多分、親よりも年上の女性だが、抜群にお洒落で美人。だから話が面白い。案内を締めくくるのはやはり岩木山のことで、裾野を大きく広げた津軽の心を魅力たっぷりに伝えた。もう一度、聞き惚れていると、今度は少しうつむいて、聞いてくれてありがとうとはにかんだ。

一枚いいですか——?

すかさずレンズを向けると、覗かせた顔がまたすごい美人で。思わずファインダーから目を離してシャッターを切ってしまったから、ピントは写真に合わなかった。

 

温湯温泉の客舎群が夏の日差しに照り返す。結局、またきちゃった♪