冷たい到達点

冷たい到達点

眼前にそびえる二つの峰が塵一つ漂わない世界の中で純粋なまでに美しく、思わずサングラスを外して仰ぎ見た友の顔に眩しさを弾けさせた。北八ヶ岳の天狗岳は同じような背格好の頂きを東西に持つ双耳峰。たおやかな曲線がその間柄を取り持つように繋がっていたので、二つの峰は当然睦まじく思えたのだが、呼吸を合わせ、そして歩幅を合わせて (more…)

裏岩手縦走路を行く

裏岩手縦走路を行く

バスが遅れて飛び乗った新幹線で、息を弾ませながら顔を見合わせた。しかし、車内放送で謎の行き先「シンアオモリ」を告げられると、緩みかけていた顔に緊張が戻った。しまった、はやぶさ号だ——!「こまち号、こまち号は!?」デッキで車内販売のワゴンを準備していた乗務員は慌ててドアから身を乗り出し指さしたが、接続されていた前車両は盛岡の駅で切り離された (more…)

主稜線のスイッチバック

主稜線のスイッチバック

雨が強くなってきて、屋根を叩く音に寝返りを打った。長い登山道を歩いてきて疲労困憊のはずだが、寝付けない。雨が止むのを望んでいたのではなく、このまま降り続いてくれ—— 私は布団の中で体を小さく丸めて、祈るようにそう思っていた。

福島と山形の県境に沿って連なる奥羽山脈の吾妻連峰は (more…)

坂の上の湯煙

坂の上の湯煙

坂の上の雲が、それでもまだ頂きを隠すように覆っていた。

急坂を一気に駆け上がりアルプスの稜線に立つと、森林限界を越えた別世界がさらに強く鋭く、切り立ったままの荒涼で息を呑ませた。そして雲は燻らした煙のように白馬の山頂を漂い、高所の絶景は感動のそれより身震いを誘った。畏れるようにと (more…)

信仰の山、嘘と告白の自炊宿

信仰の山、嘘と告白の自炊宿

約束の時間になっても友は来ず、連絡もない——。

北アルプス登山に向けてのトレーニングで、今回は出羽三山、信仰の山である月山を選んだ。肘折温泉から登り、途中の避難小屋で一泊。翌日に山頂で参拝を済ませて、麓の月山志津温泉に降りるという長い道程。当日は未明の出発を強いられていた (more…)