主稜線のスイッチバック

主稜線のスイッチバック

雨が強くなってきて、屋根を叩く音に寝返りを打った。長い登山道を歩いてきて疲労困憊のはずだが、寝付けない。雨が止むのを望んでいたのではなく、このまま降り続いてくれ—— 私は布団の中で体を小さく丸めて、祈るようにそう思っていた。

福島と山形の県境に沿って連なる奥羽山脈の吾妻連峰は (more…)

坂の上の湯煙

坂の上の湯煙

坂の上の雲が、それでもまだ頂きを隠すように覆っていた。

急坂を一気に駆け上がりアルプスの稜線に立つと、森林限界を越えた別世界がさらに強く鋭く、切り立ったままの荒涼で息を呑ませた。そして雲は燻らした煙のように白馬の山頂を漂い、高所の絶景は感動のそれより身震いを誘った。畏れるようにと (more…)

信仰の山、嘘と告白の自炊宿

信仰の山、嘘と告白の自炊宿

約束の時間になっても友は来ず、連絡もない——。

北アルプス登山に向けてのトレーニングで、今回は出羽三山、信仰の山である月山を選んだ。肘折温泉から登り、途中の避難小屋で一泊。翌日に山頂で参拝を済ませて、麓の月山志津温泉に降りるという長い道程。当日は未明の出発を強いられていた (more…)

お湯の誤り

お湯の誤り

未だ雪渓が残る緊張のトラバース。急斜面を横断する路ですれ違った初老の男性が背負っていたのは、バックパックではなくナップサックで(いや、あれは巾着袋か)、片手にはウォルターウェストンから貰ったような木製のピッケルを携えていた。おおお!あの方は、漁労長ではないか——! (more…)

真冬のテント泊

真冬のテント泊

俺の寝袋はマイナス何度までイケる—— ヤマノ主任の道具自慢、そして意地の張り合いが事の発端だった。

冬にも対応する4シーズン用など持っているわけもなく、夏用テントの中で「寒くないんでしょ?」と嫌みを言ってやるつもりで出掛けたのだが、自らも同じように寒さに苦しめられることを完全に忘れていた(ちなみに私の寝袋はマイナス2℃がリミットだった・・・)。

信州安曇野の山麓は積雪こそ少ないが (more…)